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最高裁判所第三小法廷 昭和23年(れ)607号 判決

主文

本件上告を棄却する。

理由

辯護人信正義雄の上告趣意について。

論旨は、被告人の所為が地方競馬法第十六條に該當するものであって、常習賭博罪を以て問擬すべきでないことを主張している。しかし地方競馬法第十六條と刑法第百八十六條第一項との法定刑を比較すると、前者には三年以下の懲役若しくは五千圓以下の罰金に處し、又は其の刑を併科するとあり、後者には三年以下の懲役に處するとあって、明かに前者が重いのであるから、論旨は、被告人の不利益に原判決を是正することを求めることとなる。被告人の側からその不利益に原判決の是正を求める主張は、上告理由として不適法である。

なお職権を以て調査してみると、元来地方競馬法第十六條第三號に該る罪は、偶然の輸贏に關し財物を以て賭事を為す行為であるから、性質上賭博罪であって、特別の規定がなければ刑法の賭博罪を以て論ずべきものであるが、同法條は、刑法の賭博罪の要件の外に、地方競馬法による競馬の競争に關し、職業として及び多數の者を相手方としたという特別の要件の附け加わった場合について、その情状に鑑みて特に刑法の賭博罪より重く處罰することとしている。それ故に、被告人の所為が是等の要件を備えているとすれば、地方競馬法の右の法條を適用して處斷すべきものであること論旨の通りであるが、原判決に判示されている事実は、二日間數回に亙り數名の者を相手に俗に呑屋と称する賭博をしたというに止まり、職業として、多數の者に對して賭けごとを為したという要件は確定せられていない。從って原判決がその認定した事実に地方競馬法の前記法條を適用しなかったことを以て、擬律錯誤ありというにはあたらない。

次ぎに論旨は、被告人に賭博罪としての前科なく、又先きの犯罪行為との間に數年を経過し、被告人に賭博の習癖ありとは認め難いと述べて、原判決がこれを常習賭博として處斷したことを攻撃している。しかし原判決は、被告人が昭和十三年に賭博の前科があるのに更に本件に於て數回賭博を反覆した事実並に昭和六年、同十二年、同十七年及び同十八年に何れも本件と同じような賭をして競馬法違反で處罰された旨の供述を参酌して、常習の點を認定したのである。本件と同じような賭をした競馬法違反の行為が、その性質上賭博行為であることは、前述したところによって明かであるから、原判決が是等の事実を資料として賭博の習癖を認定したのは、経験則に反することではない。從って原判決が、本件を常習賭博罪に問擬したことに擬律の錯誤はない。論旨は、原判決の事実認定を非難するか、擬律錯誤を主張するかの何れかに歸するのであるが、右の理由によって何れも採用することができない。

よって刑事訴訟法第四百四十六條に從ひ主文の通りに判決する。

以上は裁判官全員一致の意見によるものである。

(裁判長裁判官 長谷川太一郎 裁判官 井上登 裁判官 島 保 裁判官 河村又介)

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